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ヘッセの『シッダールタ』(新潮文庫)を読み終わった。 ヘルマン・ヘッセを読むのは、中学生時代の『車輪の下』以来ではないだろうか。 インド思想をベースにした同書を、書店でふと手にとって購入したのは昨年。すぐ読み始めたが、いろいろなものを並行して読んでいるうちに中断してしまっていたのを、再び読み始めたのだ。特に後半が圧巻で、もう引き込まれるように読み終えた。 「シッダールタ」とは、釈尊の出家以前の名。この本は、シッダールタを主人公に、求道者が悟りに達するまでの体験の奥義を探ろうとした作品だ。 文庫でほんの8ミリほどの厚さだが、ここには実に深いものが詰まっている。 「あらゆる真理についてその反対も同様に真実だということだ(中略)世界そのものは、われわれの周囲と内部に存在するものは、決して一面的ではない。人間あるいは行為が、全面的に輪廻であるか、全面的に涅槃である、ということは決してない。人間は全面的に神聖であるか、全面的に罪にけがれている、ということは決してない。そう見えるのは、時間が実在するものだという迷いにとらわれているからだ。時間は存在しない。(中略)時間が存在でないとすれば、世界と永遠、悩みと幸福、罪と善の間に存するように見えるわずかな隔たりも一つの迷いにすぎないのだ」 「罪びとの中に、今、今日すでに未来の仏陀がいるのだ。(中略)世界は不完全ではない。完全さへゆるやかな道をたどっているのでもない。いや、世界は瞬間瞬間に完全なのだ。あらゆる罪はすでに慈悲をその中に持っている。あらゆる幼な子はすでに老人をみずからの中に持っている。(中略)抵抗を放棄することを学ぶためには、世界を愛することを学ぶためには、自分の希望し空想した何らかの世界や自分の考えだしたような性質の完全さと、この世界を比較することはもはややめ、世界をあるがままにまかせ、世界を愛し、喜んで世界に帰属するためには、自分は罪を大いに必要とし、歓楽を必要とし、財貨への努力や虚栄や、極度に恥ずかしい絶望を必要とすることを、自分の心身に体験した」 マーケティングやマスコミは、物事を分かりやすく伝えるために、言葉で人々を区別し、決め付けてしまうことが多々ある。それも時には必要ではあるが、そういう情報だけに惑わされないことが、今こそ求められている時はないのではないか。 「時間は実在しない」という輪廻の思想はますます興味深い。 この本を読み終えた時、今、世の中でおこっているあらゆること、自分自身におこっていること、そのすべてを受け入れよう思った。すべては川の大きな流れの中に組み込まれ、変化しているだけに過ぎないのだから。 |



