
昨日午後、渋谷で『アイム・ノット・ゼア』という映画を観た。
実在の歌手、ボブ・ディランをモデルにしたもので、ディラン自身が製作を許可した唯一の伝記映画らしいが、ただの伝記ものではない。
監督は、アメリカのインディペンデント系のトッド・ヘインズ。以前に、ジュリアン・ムーアの『エデンより彼方に』を観たはずだが、その内容はまったく覚えていない。一般には『ベルベット・ゴールドマイン』の方が知られているかも。
ボブ・ディランという人物に、特別な興味や思い出があったわけではない。
人間を描く、伝記の手法というものを知りたいというのが、私の下心。
136分もの長編で、その中には6人のディランが登場する。しかも全部違う名前。
「アルチュール・ランボー」と名乗る詩人、11歳の黒人少年、偽りの結婚生活を送る映画スター、60年代の華麗なるロックンロールスター、シンガーソングライターで教会の牧師、西部開拓時代のアウトロー。
それぞれ時代設定も違う物語が時々入り乱れ、最初は何のこっちゃという感じだが、観ているうちに、これは6人のバラバラな人の物語を通して、1人のボブ・ディランという人の実像に迫ろうとしていることが徐々にわかってくる。
そもそも人間というのは、いろいろな側面を持っているのだ。
人間の本質は、性別、人種、時代を超える。
お馴染みの俳優が何人も登場しているが、しかし、「華麗なるロックンロールスター」を演じたケイト・ブランシェットにはたまげた。
顔も体つきも、どうしてこう違う人になりきれるんだろう。
銀座アルマーニタワーのオープニングで微笑んでいた、あの女優とは全くの別人。
男装とか、ディランの物真似といった域をはるかに超え、見事に「カメレオン女優」のキャリア更新だ。