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家から駅に向かう途中。ある一軒家の玄関先で、一人の老女がよく立っている。そして、私を見ると、必ずこう声をかけてくる。 「今、何時ですか?」 時には、手に時計を持っていることもある。 「はい、何時ですよ」と答えると、「ありがとうございます」と、深々と頭を下げる。 時には涙ぐむほどうれしい様子を見せる。 時々、急いでいる時などは、わざと目を合わせないようにして急ぎ足で通り過ぎるのだが、罪悪感を覚えるから、なるべく丁寧に答えるようにしている。 いつもその老女の家族の姿はない。家の前だから放っておいても大丈夫と、わざと人と接触する機会を作ってあげているのかもしれない。 今日もいた。 「1時20分ですよ」と答えたが、「にじゅっぷん」という意味がどうもよく飲み込めなかったようで、怪訝な顔をしていた。 私も、毎日毎日、時間を気にしながら、1年が過ぎてしまった。 この場に及んでも、あれもしなきゃ、これもしなきゃと、気持ちだけあせっている。 今、何時ですか? |



